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1.今年こそは・・・
午前3時半、準備を済ませてホテルから真夜中のカラカウア通り
に出てみると、すでに沢山の人がカピオラニ公園に向かって歩い
ていました。
今年はマラソン・ツアーではなく、全くの個人手配で来ましたか
ら、スタート地点までの移動も自分で算段しなくてはなりません。カ
ピオラニ公園には、スクール・バスの表示をつけたおびただしい数
のバスが集まっています。何千人のランナーがここからスタート地
点のアラモアナ公園に向かいます。
屈伸運動をしたりしながらスタートを待っていると、隣にいた男性
が話しかけてきました「何時間ぐらいの目標ですか?」「一応、4時
間半です。」少し見栄を張って答えます。そうです、今年こそは!
ホノルル・マラソンの公式ホームページに、完走の目標時間から
各マイル毎の通過目標時刻が計算できるプログラムが載ってい
ました。これを使って4時間半で計算したラップ表をランニング・パ
ンツのポケットに入れていました。しかし、このときの私には、それ
がどんなに大それた目標であったか、未だ知る由もありませんで
した。
2.未だ暗い中を・・・
いつものようにアメリカ国歌の斉唱があり、牧師さんのお祈りが
あり、花火が上がり、午前5時スタート。2万2千人がいっせいに
走り出しました。
ダウンタウンは未だ真っ暗ですが、クリスマスのイルミネーション
があちらこちらで光っています。大勢の見物人が応援の声をかけ
てくれます。
角の中華料理店の店先に大きな垂れ幕がかかっていて、そこに
は「ゴール地点! 美味しいビールが待っています!」と大書して
あります。そして続けて、「ビールを飲まない人のゴールは40km先
です」。思わず走りながら笑ってしまいました。こういうジョークは
良いですね。
ホノルル・マラソンでは1マイル毎の表示がありますが、最初の
表示を見落としました。ペースはどうなのか、気になります。しばら
くして2マイルの表示を発見、21分、まずまずのペースです。概算
では、1マイル10分少しで最後までとおせれば目標達成のはずな
のです。足も軽く、快調です。
ところが、アラモアナ公園あたりまで戻ってきた辺りで、4時間半
の風船をつけたペースランナーに抜かれました。おかしいなあ、こ
のペースで大丈夫のはずなんだが・・・。
今年から味の素がホノルル・マラソンのスポンサーを止めたとい
う事は聞いていました。と言うことは、昨年まで各エイドにあったア
ミノバイタルは、今年はなさそうです。代わりの何かスポーツドリン
クがないと辛いな、と考えます。
はたして、1つ目、2つ目のエイドにあったのは水だけでした。こ
れは、来年からは梅干しを持って走らないといけないかな、と考え
ます。
しかし、3つ目のエイドからは、スポーツドリンクがありました。た
だ、昨年までのアミノバイタルに比べると味がしつこく、口の中が
べとつくような感じでした。
3.夜明けが・・・
暗いカピオラニ公園を回ります。去年はこの辺りですでに体調が
悪く、何度かトイレに駆け込んだのでした。今年はそれについては
大丈夫のようです。10km地点を1時間4分で通過、まあまあかな。
未だ暗いダイアモンド・ヘッドの登り坂です。今年は風もそれほど
気になりませんでした。いつものように車椅子ランナーのトップと
すれ違います。5分早くスタートしただけなのに、もうハワイカイを
回ってきたの?
カハラ・モールへ向かう長い下り坂の辺りで夜が明けてきまし
た。大体この辺りで15kmぐらいでしょうか、1時間37分と、ちょっと
遅れ気味か。
あれ、ダースベーダーに抜かれてしまったぞ。全身かぶりもの姿
のダースベーダーはホノルル・マラソンの有名人です。毎年あの
衣装で走りきるというのは、並大抵の脚力ではありません。ただ、
たいていは帰りのハイウエイになると歩いていることが多いので
すが、今年は追い越すことが出来ませんでした。あの衣装の人に
負けるとは、情けない・・・。
今年はこの他に2人組のドラエモン(こちらも全身の被りもの)が
話題となりましたが、私は一度も遭遇しませんでした。幸いドラエ
モンよりは終始早かったようです。
4.中間点は・・・
ハイウェイに入り、日が昇り、暑くなってきました。
そして、これはどうしたことか、足も次第に重くなってきました。お
いおい、未だ20kmだぜ、あの乗鞍高原で60kmを走破した足はどう
したのだ? あの四万十川で60kmを走破した足はどこへ行ってし
まったのだ?
やはり、一昨日、昨日と買い物やなんだと歩き回りすぎたのがい
けなかったか。ホノルルに来た嬉しさで、普段はしたことのない大
会直前のジョギングなんてのも、カピオラニ公園からアラワイ運河
やワイキキ・ビーチでしたしなあ。
ハイウェイに入り4kmほど行ったところが中間点になります。2時
間17分と、目標通過時間よりかなり遅れてきています。ん、こりゃ
いかん。
疲れてきたので、気を紛らすために周りの人を見ます。ランニン
グ・シャツの背中に書いてある文句を読んだりします。有名なのは
「前に進まなければ帰れない」というもので、初めてみたときは感
激しましたが、今は印刷した製品として売っているようです。
今年一番に面白かったのは、マジック・インクでの手書きで「ごめ
んなさい、もう駄目です」と書いたものでした。うん、うん、私ももう
駄目だよ、と内心うなずいてしまいました。
折り返して来るランナーの数が次第に増えて、ハワイカイが近づ
いてきました。
向かいからの朝日がまぶしく、この時だけサングラスをかけまし
た。そのために向かいのランナーの顔がよく見えなくなってしまい
ました。
今年は有名人とすれ違ったのも気がつきませんでした。永井大
はTVカメラに囲まれて走ったとのことでしたが。
5.疲れが・・・
疲れは最高潮に達し、もう歩いてしまいたいぜ、と言いたい気分
です。ハワイカイを回るこの辺りでは1マイルに12分もかかってい
ました。
ABCストアで購入しておいたエネルギー・ジェルを食べます。チョ
コレート味で、これが甘いのなんの、エイドで水を取り飲み込みま
した。これで少しは回復するかな。
なんとか再びハイウェイに戻ってきます。
30kmを通過、時間は3時間20分。この疲れようでは目標の4時
間30分はとても不可能になりました。
痛くはないのですが、大腿が重く、次第に足が上がらなくなって
きました。
立ち止まってストレッチをしていると、すぐ横で、やはり立ち止ま
ってストレッチをはじめた青年がいます。「オオ、大変疲レマシタ
ネ、足ガ痛イデスネ(もちろん、英語ですよ)」と話しかけてきます。
「エエ、本当ニ」と答えます。妙な親近感です。
20マイルの表示を通過、あと10km足らずだ、やれやれ、と言う気
分です。それにしても暑い。
6.あと7km・・・
ハイウエイが終わり、カハラ地区へ降りる辺りで、横を走ってい
た60歳ぐらいの男性が、「こりゃ、5時間ぎりぎりのペースだな」と
話しかけてきます。私も、このまま歩かずに最後まで行ければ5
時間カットは出来るだろうと考えていました。「去年はここでもう30
分早かったんだがなあ」とその男性は悔しそうでした。
「最後にダイアモンドヘッドがあるから、まあ、そこまではおとなし
く行きますか」と、未だかなりの余裕がありそうです。
これは一緒に行けば助かるかなと、しばらく併走したのですが、
カハラの最初のエイドで立ち止まって給水している間に、その人は
行ってしまいました。あ〜あ。
カハラ地区ももうじき終わりという辺り、女の子が家の前で小さな
紙コップをお盆に載せて配っています。
これはひょっとしたら飴湯とか、紅茶ではないだろうかと、期待し
ます。とにかく何か甘い飲み物が欲しい! ありがたく紙コップを
取ったときに、女の子が「ワーター・プリーズ」と言ってくれました。
ん、ワーター? えっ、水? 水ならさっきエイドで飲んだばかり。
でも、せっかく女の子がくれたのでありがたくいただきました。
7.ゴールは・・・
さあ、両側の別荘やホテルがなくなり、視界が開け、いよいよ最
後のダイアモンドヘッドの登り坂が見えてきました。ここまで来れ
ばあと3kmと、気持ちを振り絞ります。しかし、すでにスピードは早
足で歩いているのと変わらないぐらいでした。
よろよろと坂を上がり、左手に真っ青な海が広がります。灯台の
ところまで来ました。あとは下りを残すだけになりました。
カピオラニ公園に入ってきました。最後のエイドがありますが、も
う寄らずに行くことにしました。辛い、足が上がらない、ここで立ち
止まったら、もう走り出せない、そんな気持ちでした。
ホノルル・マラソンの最後の1マイルの沿道の声援は素晴らしい
ものがあります。しかし、今年はそれも耳に入らないほどでした。
向こうの方に見え始めたゴールの横断幕ばかりを見て走ります。
あと少し、あと少し、私の足よ、がんばれ!
ついに、ゴールっ! 時間は4時間56分と、かろうじての5時間カ
ットでした。
今年の完走Tシャツは濃緑色でした。フード・テントでもらった甘
酸っぱいリンゴの果汁が喉にしみました。
*****
こうしてあの暑かった42.195kmをふりかえっていると、足の辛か
ったことさえもが懐かしく思えてきます。 ホノルル・マラソン独特
の、あの明るさとお祭り気分の高揚感は他の大会では味わえない
ものがあります。
それにしても、今年の体調からすれば、もう少し良いタイムがで
るはずだったのだが・・・、また参加することがあれば、今度こそ
は・・・。
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