リベンジ萩往還70km 2005

1.はじめに

 今年の連休も山口にやってきました。去年、無念のリタイアをし た萩往還マラニック70kmコースのリベンジをするためです。
 去年、参加賞に「萩往還」のロゴが背中に入った大会Tシャツを もらっていたのですが、やはり恥ずかしくて、この1年間はそのTシ ャツを着ることは出来ませんでした。
 さあ、今年こそは・・・

2.スタートあたり

 湯田温泉のホテルで3時半起床、前夜に購入して置いたおにぎ りと珈琲の朝食を済ませます。
 5時過ぎにスタート地点の瑠璃光寺へつきました。夜が明けて明 るくなってきています。
 去年は大会のあいだじゅう雨に降られて寒い1日でしたが、今年 は晴天、暑くなりそうです。
 名古屋から参加のKさんご夫妻と会いました。Kさんとは毎年ホノ ルル・マラソンでご一緒します。ご主人とは2年前の「Run & Walk  in 乗鞍60km」のときにお会いしました。
 Kさんは萩往還道を萩まで行く35kmコース、ご主人は私と同じ萩 往還道を往復する70kmコースです。
 完踏を誓い合って、Kさんは15分ほど早くスタートしていきまし た。
 70kmコースの参加者は220人ほどです。50人づつの組に分かれ て5分おきにスタートします。私はKさんのご主人と一緒に6時25分 にスタートしました。

 コースの簡単な紹介です(詳しくは去年書いた「萩は晴れている か」を見てください)。
 山口市の瑠璃光寺をスタートして高低差500mの山越えをして約 15km先の佐々並へ。
 次に300mの山越えをして9km先の明木へ。
  さらに小さなアップダウンの3kmで萩有料道路料金所、そこから は市街地を8km走って折り返しの萩城に着きます。
 コースは萩料金所から萩城の間の往復16kmだけが平地で、残 りの54kmはすべて上っているか、下っています。確かに難コース です。
 今年も目論見としては、行きの35kmを5時間、折り返し地点での 昼食に30分程度とり、帰りをなんとか6時間半でおさめて、12時間 で戻ってくるというものです。果たして上手くいくでしょうか。

3.佐々並まで

 一ノ谷ダムまでは緩やかな上りの舗装路です。この辺りでは皆 元気に走っています。先にスタートした萩までのウォーキングの人 たちを抜いていきます。
 傾斜22度の上りとなる石畳の萩往還道部分はさすがに走れま せん。
 喘ぎながら上りますが、雨だった去年とは違って足元がすべる 心配はありません。
 片道とは言え、去年一度走っているのでコースの様子はだいた い分かります。いかに帰りの余力を残して萩へたどり着くか、これ がポイントでした。

 登りで無理をしすぎてはいかん、どうせ後半でスピードは落ちる のだから行きで焦っても消耗するだけだ、
 下りで飛ばしすぎると後で膝に来るからな、自重しなければなら ん。
 あれ、それじゃあ、いつ、走るんだ?

 佐々並エイドでKさんのご主人に追いつきました。写真を1枚撮っ てもらいます。
 今年も、豆乳から作ったという名物の佐々並豆腐をいただきま す。豆腐にかけた醤油の味がなんともいえません。ここまで1時間 50分と、私にしてはすこし飛ばしすぎか?

4.明木まで

 エイドは集落に下りてきた地点の3カ所(往復で6カ所)だけで、 その間は車も走れないような山道が主ですから、水分の補給も自 分で考えなくてはなりません。
 去年は普通のリュックサックにかなりの荷物を入れて走りました が、あれは多すぎました。
 去年の反省から、今年の携行品は、エネルギーゼリー1個、 200mlのスポーツドリンク1個、使い捨てカメラ、マーブルチョコレー ト、絆創膏数枚だけとして、ウルトラ用の小さなリュックサックにし ました。
 スポーツ・ドリンクはエイドごとに補給させてもらうことにしました。 どのエイドでも、ことわると、どうぞ、どうぞ、とスポーツ・ドリンクを 分けてくれました。感謝。

 佐々並を出発してふたたび山の中を走り、約9kmで明木エイドで す。35kmコースに参加のKさんが、ご主人と一緒にいました。
 経過時間は3時間13分と、ちょっと当初の予定よりは早すぎま す。一升谷の長いごろごろ道の下りで急ぎすぎたのか、このペー スでは後半に足が持たなくなるかもしれないな、と不安が募りま す。
 私がお饅頭を二つ食べている間に、Kさんご夫婦は手を振って 仲良く出発していきました。

 この集落ではちょうど市のようなものをやっていて、家々の表に 手作りと思われる作品を売っていました。
 ある家の前では木版画を並べていました。傍らではバレンを手 にして刷っています。なかなか良い感じなのですが、墨がすこし薄 いのではないかな。

5.萩料金所エイドまで

 去年はコースが判りにくくて何度か間違えそうになりましたが、 今年は分岐点の道には白い大きな矢印が描かれていて迷うこと は一度もありませんでした。
 去年は雨のために、せっかくの矢印が流れてしまっていたのでし ょう。

 この大会では48時間で250kmを走るAコースの人、24時間で 140kmを走るBコースの人、そして私が参加した70kmのCコースの 人全員が、最後には萩から山口へ向かいます。
 ですから、いろいろなところを回ってきた人たちが、やがていっせ いに萩往還道の帰途につきます。すべてのコースのゴール時間 は(ウエーブ・スタートによる時間差を除けば)同じ夕方6時です。
 AコースやBコースの早い人とは萩へ向かう行きにもうすれ違い 始めます。
 去年は、すれ違うAコースの人は疲れきっているなあ、と思った のですが、実はこの時間にすれ違う人たちは余裕の完踏者なの でした。本当は、私が帰途に抜いたAコースの人たちこそが、ぎり ぎりの戦いをしていたのでした。
 驚嘆あるのみです。

 萩有料道路料金所の広場のエイドにつきました。
 去年は寒くて震えていましたが、今年は日差しが強いというの で、大騒ぎをしながらターフを張っています。
 去年飲んだコンソメ・スープが美味しかったので、今年もあります か?と尋ねると、はいはい、どうぞ、とついでくれました。ほどよい 塩味が美味しい! 今年はエイドのお姉さんに写真を撮ってもら いました。

6.萩城折り返しまで

 ここからは平坦な市街地を3km走って折り返し地点です。まばゆ いほどの天気です。去年の惨めだったびしょ濡れの風景が嘘のよ うでした。

 折り返し地点の萩城に到着します。4時間50分と去年より10分 早い到着でした。
 預けてあった着替えの入った袋を受け取ります。
 去年はびしゃびしゃの雨のなか、テントで着替えをしましたが、今 年は芝生の上で思う存分休めます。やっぱり雨はいかんよ、雨 は。

 木陰を見つけて腰を下ろします。シャツを脱ぐと、素肌に風が心 地よく吹き抜けます(男で良かった!)。靴下も脱いで蒸れた足を 風に当てます。
 お弁当のおにぎりを2つ完食。シャツと靴下を着替えます。
 見ると、近くの木陰でKさんご夫婦も休憩していました。35kmを無 事に完走したKさんに、萩城の横断幕をバックにした写真を撮って もらいました。

7.帰途について

 気分一新で帰途につきます。お昼になり、太陽がいよいよ暑くな ってきた萩市内をKさんのご主人と前後しながら走ります。Kさんの ご主人はデジタルカメラ片手に、あちらこちらで立ち止まっては写 真を撮りながらのんびりと走っています。

 折り返し地点に向かうランナーと次々にすれ違います。まだ余裕 で走っている人と、もういやいや走っている人と、なんとなくわかり ます。かなり疲れている人とすれ違うときには、「もうじき折り返し ですよ」とか、「あと1kmぐらいでゴールですよ」と声を掛けました。
 というのも、去年、このあたりで萩城に向かっていたときに、「もう すぐですよ」と声を掛けてもらったのがうれしかったのです。しか し、ということは、去年の私はすでにこの辺りでいやいや走ってい るように見えたのかな?

 自販機があったので、Kさんのご主人には先に行ってもらって、 コーラのミニ缶を飲みます。うまい。
 Kさんのご主人はここからも快調に走れたようで、結局、私よりも 50分も早くゴールしていました(70km完踏者のなかで真ん中よりも 前の順位です、立派っ!)。 
 
  萩有料道路の入り口のエイドに戻ってきました。これで43kmと、 フルマラソンの距離を超えたことになります。塩分がほしくて、また コンソメ・スープをもらいます。普段はあまり口にしない沢庵もつま みます。少し体が元気になったような気がします。

 さあ、ここからはアップダウンの繰り返しになります。
 今日の戦略としては、帰途の上りは無理をせずに歩く、と決めて いました。そのかわり、下りはどんなに足が痛かろうと走る、と。た だし、最後の石畳の萩往還道の下りは別です。
傾斜度22%はさすがに走ることはできません。

 萩を目指しているウォーキング部門の人たちと次々にすれ違い ます。「頑張って」と声をかけてくれます。ついに復路に入り、自分 も励まされる立場になりました。去年はなかったことなので、これ は非常にうれしいことでした。 

8.明木〜佐々並

 堤防沿いの道や、幾つかの山道の上り下り(この区間はそれほ どの勾配ではありません)
を走り、明木まで戻ってきました。
 ここまでの46kmで7時間5分が経過しています。残りは24kmで5 時間足らず。あとは残りの距離全部を時速5時間で歩いても完踏 できるのか、と計算したりします。
 しかし、この足の状態であの山道を時速5時間で歩きとおせるだ ろうか、と不安もよぎります。

 ちょっとだけ椅子に座って、休みます。ウルトラでは、なるべく休 むときに座らない方がよい、と書いてあるのを読んだこともありま す。確かに、疲れたときに一度座り込んでしまうと立ち上がれなく なります。去年の四万十川でのカヌー館での休憩が、調度そんな 感じでした。しかし、疲れきる前だと、座ってもあまり影響はないよ うです。
 このエイドでだったか、レモンの蜂蜜漬けがありました。甘くてす っぱい味がたまりませんでした。 
 スポーツ・ドリンクを補給させてもらって、立ち上がります。

 いよいよ長い長い一升谷の上りにやってきました。
 行きには駆け下りた道でしたが、帰りは6kmぐらいの山道で 350mを登ります。うへえ。先を見上げるときりがありませんから、 足元だけを見てひたすら登ります。
 石がごろごろしていますから、足首をひねらないように注意しな がら登ります。

 太股が重くなってきます。息が上がってきて、とめどなく汗が流 れます。
 今回、一番苦しかったのはこの一升谷の上りでした。なんでわざ わざこんな苦しいことをしているのだろう、と、本気で考えていまし た。もうこれでウルトラなんか止めよう、とも思ったりしました。
 峠の頂上に着いたとき、周りには誰もいませんでしたが、思わ ず、やれやれ、やっとだぜい、と自分に声を掛けました。
 この坂が登り切れれば、時間内は無理だったとしても、瑠璃光寺 まで戻ることは出来る、と思えました。 

9.佐々並〜

 最後のエイドになる佐々並に戻ってきました。もう一度、お豆腐 を食べます。
 かなりの人が休んでいます。残りは約15kmで、行きはこの距離 を1時間50分で通過していますが、帰りは果たしてどれぐらいを見 込めばよいのか、不安がつのります。
 この時間にここにいる人たちは皆、私と同じように制限時間との 戦いですから、口々に皮算用をしています。「去年はここから3時 間かかったなあ」「じゃあ、ぎりぎりだな」「上りが長いし、あの下り も走れんしなあ」 

 バナナをもらい、出発します。残り時間は3時間7分。普通で行け ば15kmを3時間あれば楽勝なのですが、疲れのたまった身体で、 500mの山越えをこれからしなければなりません。
 「頑張って」と背中に声がかかります。大きく手を挙げて応えて、 ゆっくりと走り始めます。 

 さて、長い長い舗装道路の登りです。見通しがよいので、前後に かなりの人影が見えます。走っている人は誰もいません。皆、 黙々と歩いています。
 Aコースの人、Bコースの人はさすがに歩きの早さもゆっくりで す。どのコースもゴール制限時間は午後6時ですから、私がぎり ぎりだとすると、ここで私が抜いたAコースの人やBコースの人は かなり厳しいことになります。頑張って下さいよお、と思いながら抜 いていきます。

 行きにも寄った私設エイドでお茶をもらいます。草餅も置いてあ りました。甘い餡がエネルギーになりそうです。ただ、私の到着時 間が遅かったですから、餅が少し固くなっていました。お茶で流し 込みます。
 傍らでは、Aコースを走ってきた女性が「気持ちいい〜っ」と言い ながら、水道の水を頭からかけてもらっています。

10.最後の難関

  長い登り坂を上り詰めて、いよいよ石畳の急な下り坂の待つ萩 往還道の最後の難関まで戻ってきました。
 舗装道路から萩往還道への入り口で係員の人が道案内をしてく れています(Aコース、Bコースの人は初めて通りますから、少し判 りにくいのです)。
 係りの人に、「あとどれぐらいかかりますかね」と聞いてみます。 「時間にして、あと1時間ぐらいかな。」との嬉しい言葉。制限時間 までまだ1時間半が残っています。これで何とかなると、ここではじ めて時間内完踏を確信しました。

 少し登った後は、傾斜22度の、とにかく急な石畳の下り坂です。 一歩ごとに太股が痛いのですが、これは四万十川マラソンの 70km過ぎの、あの足の痛さを思えばなんでもありません。
 それよりも辛かったのは、親指の爪の部分の痛さです。下りの衝 撃がそこにのしかかり、痛みが響きます。これは両方とも親指の 爪は死ぬな、と思ったりします。少しでも痛みを和らげようと、体を 横向きにして道をジグザグに下ります。それでも痛い!
 (終了後に靴下を脱ぐと、案の定、親指の爪は両方とも黒く変色 していました)

 苦闘の末、ついに萩往還道の出口にたどり着きました。やっと、 ここまで戻ってきた!ここまで来ればあとはなんでもないぞと考え ます。
 ここの係りの方に「萩往還」と書かれた碑と並んだ写真を撮って もらいました。

11.ゴールまで

 この辺りでAコースの方と一緒になりました。ちょうど並んだとき に、こちらを向いて「暑くてしんどかったねえ」と言って、にっこりと 笑いかけてきました。それは、ここまでの247kmを踏破してきてゴ ールを確信した快心の笑顔でした。
「本当に。そちらほどではありませんでしたが」と答えると、「いや いや」と、また本当にうれしそうな笑顔になりました。
 ここまで、本当にお疲れさまでした。お互いに、もう少しです。 

 あとは舗装された緩やかな下り坂が3kmほどゴールまで続くだ けです。走る分には親指の爪も衝撃がかかりませんから痛くあり ません。
 最後にととっておいたエネルギー・ゼリーの残りを飲み、走り始 めます。ダムの湖畔を過ぎ、遙か下に見えていた民家の屋根がぐ んぐんと近づき、目の高さになり、ついに平地に戻ってきました。

 そして瑠璃光寺への最後の曲がり角を右に曲がります。その途 端、沿道にはそれこそ大変な数の応援です。すでに走り終えた 人、ボランティアの人、近所の人などが口々に、「お疲れさま」「お 帰りなさい」と声をかけてくれます。タクシーの運転手さんまでが声 を掛けてくれます。「ありがとう」「ありがとう」と走りながら手を振っ て応えます。
 完踏できて、これで「萩往還」のロゴが背中に入った大会Tシャツ を着ることが出来るなと考えます。

 道の両側の応援の人をかき分けるように瑠璃光寺の境内に走 りこみます。国宝の五重塔が背景に入るような位置にゴールテー プが張られていて、一人一人のゴール時の写真を撮ってくれてい ます。両手をあげてテープを切りました。
 制限時間まではまだ38分が残っていました。

12.最後に

  結局、所要時間の大雑把なまとめとしては、行きが4時間50分、 萩での昼食休憩が20分、帰りが6時間10分、合計11時間20分あま りというものでした。
 去年の四万十川ウルトラマラソンの80km地点がタイムオーバー の11時間25分でしたから、ほぼ同じ時間をかけたことになります。 終わったあとの足の疲れ具合は、今回の方が少ない感じでした。

 さて、翌日帰宅して数日がたつと、一升谷の上りで、あれだけ辛 くてもうウルトラなんか止めようと思ったのでしたが、数日がたった だけで、何故か、あの時間が懐かしく思えてきました。これは、危 険な徴候か・・・?



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