未刊詩編
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納豆売りの老婆は赤い鳥居をくぐってやってくる
歯がすくないためにゆがんだ口元はいつもうごいている
籠のなかに隠された両手もうごいている
籠のなかの納豆がねばついて
老婆の手を止めようとしている
昨日会った女はお腹が重いという
なにかをお腹に詰めこまれたようだという
別の女はお腹が痛いという
なにかがお腹のなかでねばついているようだという
ホウセンカの花が遠くで散る
ふたりの女が遠くでばたりと倒れる
老婆の籠のなかの納豆がわたしにからまってくる
わたしの手足がうごきにくくなってくる
何かをかばって生きることは
これほどまでに不自由なことだったのだ
もがくほどにからみついてくるものが
わたしを悲しくさせる
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