未刊詩編
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ナカモトさんは色黒の人だ
気持ちまで黒い人だと陰ではいわれている
しかしナカモトさんはすばらしい計算機をもっている
どんな複雑な問題もといてしまう計算機だ
わたしがポケットからとりだしたコードはいつもからまっている
だから音を聞きとるまえにはまず心がまえをほぐさなければならない
そんなことばかりをくりかえしてきた
風の音はそんなからまったものをくぐりぬけてくる
四つ角をいくつも曲がってナカモトさんの部屋を訪ねる
ついにわたしの計算をたのむ日がやってきたのだ
覚悟はいいか ナカモトさんが訊ねる
ナカモトさんはいつもわたしの背後にいて
ときどきは肩のあたりからのばした片手をゆらゆらとさせて
鏡にうつる様子をたしかめていたようなのだ
それから大きなテープを巻きとったリールのようなものがいくつも回りはじめる
見えないところで計算されたくはないだろう ナカモトさんは言う
問題をといてもらうことはこうして目に見えるものだったのだ
テープをからませたリールは回っては止まりまた回りはじめる
わたしの見ている世界もぐるぐると回りはじめる
世界が攪拌されていくようだ わたしは思う
しかし回っているのはわたしのほうだ ナカモトさんは笑う
ほら 君はこうしてリールにまきとられているのだよ ナカモトさんは笑う
わたしはいつまでも計算されていて
わたしは風の音も閉ざされた世界のなかへからまっていく
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