未刊詩編

流れカフェにて

 考えよ
 と渦巻きはいう(*)

言われたままに考えつづけて
都会を開墾こんこんこん 
突きあたる鍬先をきわどく止めるのがごくいです
手袋をしたままの姿で運河を越え
そこからは力まかせに野菜をひきぬく 
野菜ははりはりとからみつき
運河地図についた泥土を無理やり乾かすと
ひとりめの愛人は契りながら
なかもとくんとはたまに会うよね 
初組みだけれど
と笑いかけてくる
実は ぶるぶるとんと縊り殺していたんだ 
夜ごと夜ごと
風は東にとどめ 
哀しんで意志をたしかめ そのはこびと相成りました
いつまでもあくせくと開墾する 
だから むせる焦る

 うたえ 
 と私

歌う意志をたしかめれば
そこにいたる過程が大事だと怒られる
そこで沈黙も向日葵もあっぱぱあっぱ 
あざといばかりの極彩色だ
愛人は肥満した身体をしっとりとからめてくる
困惑顔をありばいに旅を続ければ 
そんな場所で見かけた猫は せきゅらんぱっぱ
野菜地図に描かれた閘門が燃えている 
そして愛人から恋人へ ふいに妊婦だらけの夏
異物をうめこんだ二の腕あたりはよくもみほぐしましょう
あそこの図書館が閉まるまでは夏を待っています
ふたりはめろんジュースをのみ 
向日葵畑の南の果てで気をとりなおしていた
図書館では棚という棚の警告音が鳴る 
引き算の問題もつきて警告音が鳴る
だから笑顔が必要だ 
裏の井戸ではたまねぎが冷やされている

 わたくしとは誰
 でしたか 
 と渦巻 

なかもとくんも とみながくんも
あらかじめの時間は用意されていたのだが 
まだらだらけの氷模様となって
太股を露わにしてとおりすぎるばかりだ
裏の井戸の主をあらわせ 
そんなことを言われても 
流れていくばかりで見たこともないのだからと 
困惑顔でききながす 
頤から垂れる粘液の香りが匂いたつ
猫は身体の真上に載せるとぐうたらな禿鷹のようです
長い棒を振り回していかに南の海へ近づくか
素人芝居はやはりどかんどかん 
観客の列もどかんどかん
砂浜を走る 
危険な妄想がはしる 
どこから南の海へ飛びこめばよいのか
妄想はことごとく抜けていた 
東向きなのに
乾された布をからませて 
檸檬を校庭の向こうまですべらせている

 祈りを 
 あわく祈りを
 と渦巻はなおもいう

膝のうえにはまだら模様の猫
蜻蛉が空耳をそばだてて聞いているようだけれど
えっちか 
なかもとくんと相づちをうちながらの笑い顔は隈取りですね
倉庫でも頬を寄せあっていると
こんな南の果てで
渦潮めぐりの船からころげ落ちるぞ
恋人とも愛し合いながらころげおちるぞ
渦潮めぐりは秘儀だから
祭りのはじまりからのみはじめる 
お神楽にのれのれとお婆は囃したて 
帰り道はまっすぐに
それにしても

  上に血のくつろぎはあるか
          
 (*)行書体部分は野村喜和夫「渦巻きカフェあるいは地獄の一時間」より引用


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