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1.はじめに
5月の連休を利用しての萩往還ウルトラ・マラソンへの参加で
す。
この大会の中心は、山口市から萩市までを結ぶ「萩往還」と言う
江戸時代の山道35kmを走ることにあります。私が参加したのは、
この萩往還を往復する70kmの部(制限時間12時間)です。
大会には、萩往還を片道だけ走る35kmの部や、これを歩く60km
ウォーク、35kmウォークの部もあります。しかし、この大会が有名
なのはなんと言っても250kmの部(!)があることです。信じられ
ん。
それはさておき、萩往還道はとにかく山道です。コース図を見る
と、なんと500mと350mの二つの山を越えなければなりません。最
も険しい勾配の部分では22%の傾斜です。トレッドミルでの6%の
傾斜で喘いでいる私ですから、これは相当に厳しい話です。
結果から言うと、今回の萩往還は途中でリタイアしてしまいまし
た。いつも完走記を書き続けたいのですが、二度とこんなことがな
いことを念じて、これは「悲しくも悔しいリタイアの記録」です。
2.スタートまで
午前3時半起床。ホテルの窓から未だ暗い外を見ると激しい雨
が降っています。これはまずい。止まないかなあと思いながら、前
日購入しておいたおにぎりの朝食をとります。
今回の萩往還道はかなりの山道で、途中では水分や食料の補
給も不可能との情報を得ていましたので、リュックサックは必要だ
ろうと考えていました。そしてペットボトルや、エネルギーゼリー、
甘いお菓子、使い捨てのビニールの雨合羽、途中で雨が止んだと
きのための乾いたTシャツなどをリュックに入れます。こりゃかなり
の荷物だぞ。
車でスタート地点の瑠璃光寺へ。嬉しいことに、この頃にはほぼ
雨が上がってほっとします。
集まってきた人たちを見ると、あれ、リュックサックなんて背負っ
ている人は少ないじゃないの。リュックを背負っているのはウォー
キングの部の人たちだけ。こんなに荷物を持って来るんじゃなかっ
たかとちょっと不安になる。山道と言うことで準備をしすぎたか。
折り返し地点の萩城に着替えを運んでくれると言うので、タオル
や着替えのTシャツ、ウインドブレーカー、靴下などを頼むことにし
ました。
3.スタート〜佐々並
70kmの部の参加者は220人ぐらいでしょうか。6時10分にスター
トしましたが、すぐに雨が降り始めてしまいました。リュックから使
い捨てのビニールの雨合羽を取り出して着ます。こんな簡単な雨
合羽でもあれば大分違う感じです。
一の坂ダムまでの3kmの登り坂はまだ舗装道路です。
ダム湖岸をすぎて、その先からいよいよ萩往還道に入ります。こ
こが雨に濡れた急な石畳の登りで、うっかりすると足を滑らせてし
まいそうです。周りの人も皆口数が少なくなり、黙々と登り続けま
す。先にスタートしていたウォーク部門の人たちを交わしながら、と
にかくひたすら登り続け、これが2〜3km続いたでしょうか、やっと
峠らしい場所を過ぎました。これで500mを登ったことになります、
やれやれ。
長い長い下りの舗装道路に出ました。ここでは8kmぐらいの間に
300mを駆け下ります。雨は一向に止む気配がありません。道端
の小さな農作業小屋に私設エイドがありました。お茶をご馳走に
なります。
人家が増えてきて集落に入ってきました。約15km地点の佐々並
エイドです。時間は2時間と、山越えを計算に入れてほぼ予定通り
です。今回の目論見は行きの35kmが5時間、帰りに7時間で、なん
とか12時間でゴールすると言うものです。
寒いので灯油缶での焚き火もしています。バナナやおにぎり、お
茶が置いてありますが、なんと言ってもここの名物はお豆腐です。
豆乳から作ったものということで独特の風味がありました。
濡れないようにビニールの小袋に入れていた使い捨てカメラで、
エイドでの写真を1枚撮ってもらいました。
4.佐々並〜明木
佐々並の集落を出発してすぐに萩往還道へ入ります。ここから
は4kmの間に200mを登ります。
未舗装の山道は雨で泥濘んでいて、シューズが泥の中にじゅる
っともぐりこみ、ただでも濡れているのですが、靴の中じゅうに水が
入ってきます。ただ、冷たさなどはもう感じなくなっていました。
一度止んだ雨が再び降り始めて、脱いでいた雨合羽を再度着ま
した。ところがこのときにいい加減に着たものだから、フードを変に
引っ張ってしまい破れてしまいました。襟刳りのあたりが大きくえぐ
れて、そこから雨が入り込み、ほとんど合羽の用を足さなくなって
しまいました。それからあとは全身びしょ濡れ状態となってしまい
ました。これが今回の敗着の大きな原因でした。
峠を越えると、今度は一乗谷の長い下り坂、6kmぐらいの間に
350mを駆け下ります。
石が転がったごろごろ道ですが走るのにはそれほど困りませ
ん。すぐ前を走り慣れた感じの女性がかなりのスピードで駆け下り
ていきます。引っ張ってもらおうと10mほどあとを追いかけて走り
ました。おかげでこの部分ではかなりの時間節約になったと思い
ます。
どのあたりからだったか、ゴールへ向かう250km部門の人たちと
すれ違うようになってきました。その人たちは40時間ぐらい前から
すでに230km余りを走ってきたわけです。ほとんどの方が足を引き
ずるようにして前へ前へと進んでいます。すごいものです。すれ違
いながら思わず拍手をして励まします。
明木のエイドに着きました。この10kmを1時間半とここでも予定
通りです。
おにぎりも並んでいたのですが、お饅頭を2ついただきました。
エイド毎に写真を撮ってもらおうと思っていたのですが、エイドを
出発してから明木では写真を撮らなかったことに気づきました。ま
あ、帰りに撮ればいいや、このときはそう思っていました。
5.明木〜萩市
しばらくして、また山道に入ります。
とにかくこのコースはしょちゅう萩往還道に入ったり舗装道路に
出たりします。うっかりすると道を間違えそうになります。前後して
走っている人たちと、これで合っていますかねえ、とか言いながら
走ります。前方に人がいなければ曲がり角を間違えていたであろ
う場所が少なくとも2箇所はありました。
堤防にそった道を走ったり、もう一つ小さな山を越えたりすると、
萩高速道路の料金所の広場にエイドがありました。
ここでは小母さんが鍋で暖かいコンソメ・スープを作ってくれてい
て、これは冷えた身体に生き返るようでした。これは美味しい!
と、思わず声を上げると、いつもは冷たい飲み物なんだけれども、
きょうは寒いから暖かいものにしたとのことでした。感謝。
料金所の文字をバックに写真を取ってもらいました。シャッターを
押してもらったおじさんが、帰りにもまた写してあげるよ、と言ってく
れました。しかし、そのおじさんに再度会うことはありませんでした
(涙)。
平地に戻ってきたので、多少足は重いものの、走るのは楽にな
ってきました。
ところが、折り返し地点まであと5kmのあたり、萩市内に近づい
てきた頃から再び雨が激しくなってきました。雨合羽はもう破れて
しまってほとんど役に立たなくなっています。
全身がびしょ濡れで惨めな気持ちになってきました。ウインドー・
ブレーカーには防水機能は全くないのだということを痛感しまし
た。濡れたパンツが足にへばりついています。帰りはどうせ濡れる
のだからジョギング・パンツに着きえようと考えていました。
萩駅前を通り、そこに自販機があるのを確認、帰りはここでスポ
ーツドリンクを1本購入しておこうと考えます。このときはまだ、そん
な計画が不要になってしまうとは、思ってもいなかったのです。す
れ違う人がもうすぐだよと言ってくれます。
6.萩城折り返し・リタイア決断まであと5分
激しくなってきた雨の中を萩城に着きました。時間は5時間と予
定通りです。これで制限時間までは7時間が残っていますから、ペ
ースダウンを考えても時間的にはいけるな、と考えます。
折り返し地点のテントにたどり着き、お弁当をもらいます。温か
いお茶ですよ、というおばさんの声に紙コップをとり注ごうとします
が手がかじかんでいてなかなか上手くいきません。おばさんが手
を添えて注いでくれましたが、あらあら、こんなに冷えちゃって、と
同情してくれました。
テントに入り、預けてあった荷物からタオルを取り出し濡れた身
体を拭きます。
テントの外を見ると、雨脚は一向におさまりそうにありません。
帰途に着替えようと考えていたTシャツとジョギングパンツに履き
替えます。乾いた衣服にほっとします。
そのときでした、また、この雨の中へ出て行ってびしょ濡れにな
るのは嫌だな、という気持ちが湧き上がってしまいました。ん、や
ばい!
折悪しくそのときに、山口行きのバスが出ますよ、という案内が
あり、先刻まで抜いたり抜かれたりしながら走っていた若い男女
の2人ずれが、止めて帰ろう、と言い合ってバスのほうへ向かって
立ち上がりました。ああ、あの人たちもリタイアするんだ、と思った
とたんに、すーっと気力が抜けてしまいました。
それからお弁当を食べながら、ここでリタイアして後悔しないか、
と何度か自問自答をしました。しかし、いったん乾いた衣服に着替
えた快適さが、さっきまでの雨に濡れ続けた惨めさを思い起こさせ
て、すっかり意欲は失せてしまっていました。
まもなくちゃんとした雨合羽を着た若い男性がテントにたどり着
いてきました。その方は未だやる気満満で、手早くお弁当を食べ
ると衣服を着替え、また雨合羽を着込み、よしっ!と自分自身に
掛け声をかけて雨の中に出て行きました。ああ、立派だな、とその
後姿を見送ったのでした。
しばらく待ってから山口行きのバスが出ました。大型バスの車内
はここでリタイアした人と、35kmコース完走の人たちでほぼ満席で
した。
7.反省点、いくつか
ウルトラ・マラソンは、単に「走ってみたいという欲求」だけで走れ
るほど甘いものではありませんでした。必要なのは「なにがあって
も走り続けるという意思」でした。今回の反省としては、どこかで雨
の中を走るのが嫌で、何かきっかけを自分で待っていたのだろう
と思いました。
今回の参加賞の中に、背中に「萩往還」と染め抜いたTシャツが
ありました。しかし、恥ずかしくてとても着ることができません。また
いつの日にかリベンジを果たすまではとっておくことにしました。
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